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もうすぐ出発してきます。晴れるそうなので良かったー!
で、以前アンケートの様なものをとったのですが、やっぱり当サイトはティーダよりフリオが好かれる様ですね。
フリオスキーとしてはとても嬉しかったのですが、筆が進むのはやっぱりティダスコ・・・
アンケートの意味ねぇ!でもちゃんと書きますので、時々でいいから思い出してくださいw
出かける前に1本書くと決めていたのですがどうも浮かばなくて・・・
短いティダスコだけですが、書いてみました。追記であげておきます。
それではゲムショに行ってまいります。
手先は器用な癖に、料理だけはてんで駄目なスコールがキッチンに立つのは朝だけだ。もっとも一緒に暮らし始めたばかりの頃は、俺が晩飯を作る時はよく一緒にキッチンに立って手伝ってくれたけれど。
でも、それは一週間も続かなかった。決してスコールが料理に飽きたわけでも、俺の手伝いが嫌になったわけでもない。指どころかまな板までも真っ二つにするくらいの包丁使いは見てるこっちがひやひやしたし、潰したジャガイモに塩を少々入れておいてとお願いすれば、どういうわけか塩と砂糖と間違えて、サツマイモ並みに甘くなったポテトサラダが出来上がる。米をといで炊飯器に入れるくらいなら・・・と思ってやって貰った事もあったが、といでいるうちに、とぎ汁と一緒にザラザラとシンクに流れていく米の音が響いていた。これは俺も最近知った事だけど、とぐ回数は多くても3、4回でいいらしい。それ以上やってしまうと、米の栄養分も流れてしまうそうだ。
スコールは10回以上念入りにとぐと、透明になった米に満足して炊飯器のスイッチを入れた。ありがと、とお礼を言った後、スコールがキッチンから出て行ったのを見計らってすぐに炊飯器から米を取り出し、多く入れ過ぎた水を捨てて元に戻しておいた。注意してやるのもそうだが、焚きあがったご飯がおかゆになっていたら、もっとスコールを傷付けてしまうと思ったからだ。
神経質すぎる性格のせいか、俺が指示する分量を少しでも間違えたら失敗してしまうとでも考えているのだろう、怖々と計量機で1ミリグラム単位までしっかり計っている姿を見た時、彼には悪いのだけれど、まったく役に立たないし、料理には向いていないなと思った。
もちろん口には出さなかったけれど、スコールもそれに気がついたらしく、自分用に買ったエプロンもほとんど使わなくなってしまった。
一緒にキッチンに立つと言うのは、俺の中ではかなりの憧れのシチュエーションで、新婚さんの雰囲気に浸れて良い気分だったし、二人で一つの作業をするということは、とても素敵な事だと思う。
少し残念だったけど、向いていない事を続けさせても仕方がない。これ以上続けさせても、スコールが怪我をするのは目に見えていたから、俺からも手伝ってとは言わなくなった。
だから、スコールがキッチンにたつのはモーニングコーヒーを淹れる時間だけになった。
朝の澄んだ空気に、香ばしい匂いがあわさって、眠い目を擦りながらも幸せな気持ちになれる。それが恋人が淹れてくれるコーヒーの香りなら尚更だ。
あくび混じりで「おはよう」というと、スコールは一瞬こちらをみて「おはよう」といい、またすぐ目線を手元に戻した。俺がテーブルにつくと、スコールはカップを取る為に、背後にある戸棚に振りかえる。
薄いブルーのシンプルなエプロンの紐を、白い首筋と細腰の裏できゅっと結んである。
何度見てもたまらないなと思わずに居られない。あの紐をスッと引くだけで肌蹴てしまう姿を想像するだけで、朝だと言うのに興奮してきてしまう。ましてやエプロンの下が素肌だったりなんかしたら・・・と行き過ぎた妄想を仕掛けたところで両手にカップを持ったスコールが降り返って、慌てて窓に目線をそらした。
この部屋にある家具は全て俺とスコールとお金を出し合って買いそろえた物だ。一緒に選びに行ったにも関わらず、スコールは自分から選ぼうとはしなかった。俺が選んだカーテンのサイズを、「それじゃ少し長いだろ」と否定したくらいで、あとは全部俺が決めてしまった。
後になってスコールの機嫌が特に良い時に・・・言ってしまえばヤり終えたあとのベットの中でなのだけど、聞いてみた。本当に気に入らない物はなかったのか?と。
スコールは首を横に振って、俺の胸にすっぽりと収まると、寝ごとのように呟いた。
―― ティーダに全部選んで欲しかったんだ、俺を選んでくれた時のように。
どうしてそんなに受け身ばかりでいるのだろう。そんなんじゃ絶対損してるぞ、と言ってやったら、次の週末に、スコールはあるものを買ってきて、キッチンのカウンターに置いた。ステンレス製のコーヒーメーカーだった。用途は解っていても使い方の解らないそれをジロジロと見ていると、スコールはなんだか言いにくそうに口を開いた。
―― 俺だって、欲しい物はちゃんと自分で選んでいる。
言われた瞬間は気がつかなかったけれど、新品のコーヒーメーカーで淹れてくれた熱々のコーヒーを一口飲んだ時、あまりの美味しさに頭がすっきり澄みわたって、そうして気がついた。
スコールも、ちゃんと俺を選んでくれたんだなと言う事に。
「いい匂い・・・ねぇ、まだッスか?」
足をぱたつかせて言うと、スコールはこちらに目配せもせずにのんびりとカップをお湯で温めていた。その姿はまるでコーヒーショップのマスターのようで1つ1つの動作に無駄がない。次にあれをしようだとか、これをしようだとか、迷っている所が覗えないのだ。
「ひょっとして、どっかで修業とかしてたことある?」
「何が?」
スコールがようやくこちらを向いた。顔を洗ってからすぐにキッチンにきたんだろう、前髪がピンで留められていて、むき出しになったおでこが可愛らしかった。
「だから、コーヒーの淹れ方。誰かに習ったんじゃないの?」
あぁ・・・と、頷くような素振りをした後、温めていたカップのお湯を流し捨てた。
「誰だと思う?」
珍しくスコールが即答せずに、薄く含み笑いをしながら聞いて来る。今日は機嫌がいいのだろうか。俺も嬉しくなってテーブルに身を乗り出した。
「わかんない、誰だれ?」
スコールはなんだか照れくさそうに視線をコーヒーメーカーの方に泳がせる。コトコトと抽出されていく音と同じくらい静かな声で、
「ラグナ」
「ははぁ・・・冗談だろ?エスタの大統領がお茶淹れなんてそんな仕事するわけないって」
「そうだな、あいつほど大統領らしくないやつはいないな」
「え・・・じゃあホントなの?」
スコールはこっくりと頷いた。眉が優しく下がったその顔がとても嬉しそうで、俺は湧きあがっていくコーヒーと同じように、胸の中でふつふつと音が聞こえた。
「でもさ、難しそうに見えるけど以外と簡単なんだろ?」
いつも通りの声を出したつもりが、少し突っぱねた声になってしまったけれど、スコールには気がつかれなかったようだった。逆にスコールの方が、さっきより声を大きくして俺にきっぱりという。
「そんなことない。温度とか、水の量とか、もっといえばその日の気温とかでもコーヒーの味って変わってくるんだ。ラグナはそれを全部知ってて、それを俺に教えてくれたんだ」
要約すれば「ラグナを甘く見るなよ」と叱られているような気がして、複雑な気分になった。俺だって、スコールに料理を教えてあげたかったけど、彼に正しく教えてやることが出来なかった。でもラグナさんはスコールに・・・愛する実の息子に自分の技術を教え込んだと言うのだ。スコールがコーヒーの淹れ方を覚えるまで、どれくらいかかったのかは知らないけれど、その時間は二人きりで給湯室に居たのかと思うと、悔しくて仕方がなかった。コーヒーの良い香りが、焦げくさく感じるほどに。
ようやく抽出し終わったコーヒーをカップに注ぐと、スコールは持って行ってと目配せした。椅子から立ち上がり、コーヒーカップを二つ運び、テーブルに戻る。スコールは泡立てたミルクと砂糖、それからスプーンを1つもって俺が座る向かい側の席に着く。
彼はエプロンをシュルリと外すと、テーブルの脇に置いた。
「・・・・ラグナから教わったのは事実だけど」
「え?」
カップに手をかけながらスコールは言う。
「あいつはレインから教わったんだ。レインはウィンヒルのバーで働いていたけど、カクテルの作り方の他にも、特にコーヒーにはこだわりがあったみたいで」
俺は出されたコーヒーには目もくれず、スコールの顔を凝視していた。強い視線に気がついて、スコールは少し居心地が悪そうに肩をすくめる。
「こんな話聞きたくないよな」
俺は慌てて否定した。スコールの母親・・・レインさんの事は、スコール自身もあまり知らないらしく、めったに話してくれる事はないから、聞きたくて仕方なかった。
「ラグナはもともとコーヒーなんか好きじゃなかったらしいんだけど、レインの淹れてくれたコーヒーを飲んで、あまりの美味しさにハマってしまったらしい。二人が親しくなるにつれて・・・一緒に暮らすようになって、コーヒーの淹れ方を全部教わったんだそうだ」
スコールは自分で淹れたコーヒーを一口含むと、こくんと喉を動かした。
俺はと言うと、「冷めるぞ」と言われつつも、スコールの話に集中したくて、まだミルクを加える事さえしていなかった。
「だから・・・その話を聞いた時、俺は自分からラグナに言ったんだ。俺にも教えてくれないか、って。ラグナはものすごくはしゃいでたな・・・仕事の途中だっていうのに、給湯室で準備し始めた」
俺の母さんも、早くに死んでしまったけれど、それでもたくさん教わった事はある。料理のやり方もそうだったし、洗濯の干し方とか、寝起きのクソ悪い親父の起こし方とか、家事全般は全部教わった。まだ小さかったから、拙い手つきで母さんの邪魔ばかりしてたかもしれないけど、母さんの隣で手伝えることが嬉しかった。
だけどスコールは、スコールを産んですぐに死んでしまったレインさんのことを全く知らない。もちろん、母親から教わった事なんて1度もない。ラグナさんにしてみれば、スコールが体験できなかった事を間接的にでもやらせてやることができて、嬉しかったんだろう。
スコールと目が合い、彼は喋りすぎてしまった、というようにはにかんでいた。俺はようやく、コーヒーに口を付ける。ミルクも砂糖も入れないで、初めて飲んだブラックコーヒー。
もっと苦いと思っていたけれど、苦味の奥にある、まろやかな酸味がそれを中和してくれて、
「美味しい・・・」
「・・・苦いだろ、無理するな」
「うん、でもホントに美味しいッスよ。レインさんのコーヒー」
スコールは驚いたように俺の顔を見る。傾いたカップからコーヒーがぼたぼた零れて、テーブルクロスに染みができた。スコールはそれをさっきまで着ていたエプロンで拭きとった。拭き終わって、それが布巾ではなくエプロンだと気がついたようで、
「・・・・染み、落ちるかな」
「落ちなかったら新しいの買いに行こうよ。俺はもっとこう・・・ピンクでふりふりのレースがついてるやつとかが良いな~」
「また馬鹿なことを・・・っ」
「それからさ、コーヒーの淹れ方の本も買いたいな」
「そんなものなくても俺が教えてやる」
「えっ、・・・いいの?」
「・・・・家族みたいなものなんだから、構わないだろ・・・・別に」
スコールと俺との距離を、テーブルを挟んでいなければ、今すぐ抱きしめたいくらいに嬉しかった。2口目に飲んだブラックコーヒーは、やっぱり苦くて舌がしびれてしまったけれど、いつかこれが美味しいと感じられる日が来るのだろうか。
もう少し大人になったら、スコールに言おう。
「好きだ」でもなく「愛してる」でもなく、「毎日スコールの淹れたコーヒーが飲みたい」と。